8月23日、伊集院邸。
 きらめき高校の校舎の数倍はあろうかという邸宅で行われている、伊集院の誕生パーティーに俺は潜り込んでいた。
 まあ、ルックスなぞ対したことはない俺がクリスマスやら誕生パーティーやらに招待状無しで入れるのも、不思議な話だが…(門番の目が毎度のことながら気になる…)

「やあ馬場くん、何故君程度のものがここに入れるのかね?」
「おい!何十人も待って挨拶に来てやったのに、第一声がそれかよ…」
 相変わらずの憎まれ口だ。もっとも、最近暇に任せてしょっちゅうこいつに電話しているので、かわし方も慣れてきている自分が怖い。
「本来なら、財界や海外のVIPなどの応対で忙しいのを、わざわざ時間をとってやったんだ。ひれ伏してお祝いの辞を述べるくらいが君には相応しいんだがねえ。おっと、もう時間だ。失礼するよ。はーっはっはっはっはー…」
 うーむ、今日は一方的に言われてしまった。もっとも、本当に対応で忙しそうだから、仕方ないかもしれない。
(しかし、折角のパーティーなのに、本人が楽しんでる様子じゃないなあ…)
 俺は、なにかやりきれない思いで伊集院を遠くから眺めていた。

「よう正平、おまえも来てたのか!しっかし、よ〜くそんな格好でここに入れたなあ!!」
 いきなり肩を叩かれて振り返ると、好雄が立っていた。
「お前に言われたくないぜ…どうせお前も適当にごまかして入って、美味い料理でも食って帰ろうって魂胆だろうが」
 俺は好雄に言い返したが、授業中と同じ位人の話を聞いていない。
「まあそんなことより、今度の日曜日空いてるか?遊園地でWデート、セッティングするんだけどさ。」
 そのとき、俺はちょっとしたアイデアを思いついた。
「いいぜ。でも、ちょっと考えがあるんで、女の子は3人呼んで来いよ。」
「お前も無茶言うなあ…2人そろえるのだって結構大変なんだぜ?まあ何考えてるのか知らんが、やってみるよ。お、丁度あんなところに古式さんが!じゃあな正平。俺も忙しいんだ!」
(…同じ忙しいでも、伊集院と好雄じゃえらい違いだな ^^; )
 そんなことを考えながら、俺は今後の計画を考え始めた。

 日曜日。
 好雄の尽力で女の子も3人揃い、総勢6人で、俺たちは遊園地前にいた。もっとも、そのうち2人は明らかに機嫌が悪い。
 女の子は、詩織、如月さん、古式さん。好雄の手腕も大したものだと、いつも感心する。で、この3人は当然楽しそうだ。遊園地が嫌いな女の子なんてそうはいない。
 で、男。俺はともかく、後の二人…好雄と、伊集院…は、どうも今一つ、という感じ。
(「おい、なんで伊集院なんだよもう一人が!!」)
(「いいじゃないか、俺にもいろいろあるんだよ!!女の子の前で、そんな顔してるなよ!!」)
と、とりあえず好雄を不承不承納得させる。伊集院は流石なもので、嫌な顔は俺達にだけだ…ってそれはいつもか。
「それじゃ、今日はたっぷり遊びましょう!レッツゴー!!」
と音頭を取って、俺達は遊園地に入っていった。

「まったく、折角の休みを潰してまで、なんで君達と会わなければならんのだ。大体、ここは我が伊集院家が出資している遊園地で、僕ならいつでも貸しきりで楽しめるというのに…」
 君達、とは当然ながら俺と好雄だけだろう。
「そういうなよ。お前、その伊集院家の遊園地に遊びに来た事なかったんだろ?普段お客がどういう風に楽しんでるのか知っておくのも、トップに立つ者としては大切じゃないのかなあ」
 俺は、電話で約束を取り付けたときと同じような、適当なことを並べて、伊集院をごまかしにかかる。
「まあ、君がそう言うから来てやったんだ。ゆかりくん達も来るということであれば、僕の相手としても申し分無いしね。たまには庶民の感覚を堪能するのもいいだろうからねえ。はーっはっはっは!」
 うーん、最近気付いたんだが、伊集院って意外と乗せやすいんじゃないだろうか。
「そういうこと、そういうこと。さて、次は『絶叫マシーン・ビビール』に乗ろうぜ!伊集院、お前こういうの怖くないか?」
「あの…伊集院さんは大丈夫でしょうけど、私がちょっと苦手で…」
と、如月さんがそこに入ってきた。
「そ、そうか!じゃあ、僕がついていてあげるから、諸君らはさっさと乗ってきたまえ!な、なんだ、なぜ笑っている!僕はこんなもの平気なんだが、如月君が…」
 俺の顔を見ながら、伊集院が慌てて叫ぶ。伊集院の奴も、普段と違って少し浮かれているんだろうか。楽しい奴。
「わかったよ ^^; じゃあ、俺達はちょっと行ってくるから。好雄、お前どっちの娘と乗る?」
「あ、俺の台詞とるなよ!」
と好雄。なんかもう機嫌も直っている。あんまり待たせるのもなんだし、さっさと行ってこよう。

「もう、すっかり遅くなっちゃったわね。」
と詩織。みんな、1日たっぷり楽しんで、満足そうだ。
「で は 、 景 色 も よ ろ し い で す し 、 最 後 に 観 覧 車 な ど い か が で す か ? 」
 古式さんの提案で、大観覧車に向かう。
「お、空いてるじゃん。じゃあどんどん乗っちゃおうぜ!」
と、好雄が仕切る。
「さあ、順番に順番に!はい、藤崎さんと古式さんどうぞ♪で、次、如月さんと俺♪」
「お、おい!なんで最後だけ男女ペアじゃないんだよ!」
 俺は、観覧車に乗りこもうとしている好雄に慌てて声をかけた。
「当然、いきなり伊集院連れてきたお前への、罰だ♪」
 がびーん。こいつ、思いっきり楽しそうに言いやがった。はじめから考えてたな、この分じゃ。
「仕様がない、伊集院、乗ろうぜ」
「なんだ、庶民の分際でこの僕と2人で乗れる光栄を、もっと嬉しがるがいい!」
 …なんでこいつはいつも一言多いんだろう…

「ところで伊集院、ちょっといいかな。」
 観覧車の中で、俺は鞄をごそごそと漁り出した。
「この間のパーティーのとき、プレゼントなんか持っていかなかったんで、代わりにこれやるよ。」
と、髪留め用のゴムバンドを渡した。
「な、なんだいきなり!ま、まあこの僕に贈り物をしたくなる気持ちはわかるが、所詮庶民らしい貧相なものだな!」
 伊集院が、少し慌てたように言った。
「お前に金かけた物あげても、逆にありがたみがないからな(苦笑)日常使うもので消耗品なら、便利かと思ってな。いらないならいいけど。」
「僕の髪留めは、フランスのデザイナーに作らせた一点ものしか使ってないのだがねえ。まあ、ありがたく頂戴するよ。はっはっは!」
 珍しく素直にもらったな。一言多いのは相変わらずだが。
「あと、礼のついでに言っておくが、僕がパーティーで楽しむ暇が無かったからといって、わざわざこんなことをする必要はないぞ。世界のトップに立つ運命の者ともなれば、ああいったことは日常茶飯事だからな。」
 ぎくり。
「まあ、それなりに楽しめたから、それ以上は言わないことにしておこう。たまには庶民に優しく接することも大切だからねえ。」
 まったく、大した奴だよこいつは…

そのころ。
「だけど、知らなかったわ。伊集院君と正平君があんなに仲がよかったなんて。」
「そ う で す ね え 、 お 似 合 い の お ふ た り で す ね え ♪ 」
「え、でも男の子同士じゃない。そんな言い方だと、変な関係みたい(^^ 」
「そ う い え ば 、 そ う で し た ね え 」
と、となりの車両で、詩織と古式さんがとぼけた会話を繰り広げていたのであった(^^;

 

新学期。
「やあ、ゆかりくん。先日はどうもありがとう。」
「あ ら 、 伊 集 院 さ ん 。 こ ち ら こ そ 。 」
廊下で、伊集院と古式さんが話をしていた。
「… あ ら 、 そ の 髪 留 め 、 い つ も と 違 い ま す ね え 。 ど う さ れ た の で す か ? 」

FIN

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