「ねえ詩織ちゃん、5日の放課後、家に寄っていかない?」
「いいわよ。その日メグのお誕生日だったわね♪ちゃんと覚えてるし、もし誘ってくれなかったらどうしようかと思っちゃった。プレゼントも見繕ってあるんだから。」
「あ…ありがとう、詩織ちゃん。でも、そんなに気を使ってもらわなくてもいいよ。」
「なに言ってるのよ、そんな大した物じゃないわよ(^^」
 2学期の始業式。帰り際の道すがら、愛と詩織はそんなことを話しながらのんびり歩いていた。

「ところで、お呼ばれしているのは私の他に、誰かいる?」
と詩織。どうも、愛の交友が狭いのを気にかけている。
「ううん…。あんまり賑やかなのもちょっと苦手だし…」
「しょうがないなあ、メグは。」
ちょっと小首を傾げて、クスクスっといった感じで笑う。
「じゃ、その分私が盛り上げなくっちゃね。そういえば、今度商店街に新しいケーキ屋さんできたの知ってる?結構評判良いみたいよ。」
「え、じゃあ家に行く前にそこでケーキ買って行かない?」
愛が急に元気になって問いかける。
「賛成!たっくさん食べちゃいましょ♪」
詩織もそれに嬉しそうに賛同した。
(それにしても、なんで女の子はケーキの話になると急に元気になるのだろうか?)

 数日後の放課後。
「ふわわわぁ〜〜〜」
だらけきった夏休み生活が未だ抜けきらない、といった風に、正平が大あくびをしていた。
「もう、まだ夏休み気分?今日は授業中ずっと寝てたでしょ。新学期早々、遅れちゃっても知らないわよ?」
詩織があきれたように正平に話しかける。もっとも、去年までなら本気で言っている台詞だが、最近は家での予習などもしっかりこなしているのを見ているので、あくまでふざけた調子だ。
「そんなこと言ったってよ、夏休みは部活部活で休みとは名ばかりだし、ずっと授業なんて関係ないペースで生きてたんだから…まあ、幼馴染様の情けでノートさえ手に入れば、何とかなるんだけどなあ。」
ちらっと片目をつぶり、手を合わせる。
「まったくもう…今日も部活なんでしょ?今晩中にちゃんと届けに来なさいよ。はい、ノート。」
「さんきゅっ、詩織!!このご恩は一生…」
「忘れないんでしょ?判ったから、早く行ってきなさい。野球部の練習、始まっちゃうんじゃない?」
「いけね…んじゃ、ありがたくお借りします!そんじゃ!!」
「まったくもう(^^; ……あ、メグ、もう来てたんだ。ごめんなさい」
ふっと振り返ると、愛がちょっと離れたところに立っていた。
心なしか、愛の顔がちょっと暗い。
「どうしたの、メグ。元気無さそうだけど…」
「ううん、なんでもないの。それじゃ詩織ちゃん、行きましょう。」
「うん、いま行くね。…ほら、元気出してよメグ。」
「そうだね。なんたって、美味しいケーキたくさんなんだから♪」
「そういうこと!」
まだ日差しが明るい中、2人は商店街へ向かった。

一時間後、美樹原邸。
「ね、ね、詩織ちゃん、このショートケーキ、とっても美味しいの♪」
「ねえメグ、私にも一口頂戴♪うわ、すっごく生クリームが甘くてとろけちゃいそう♪」
「詩織ちゃんのフルーツタルトも、いっただき〜♪」
「あ〜、メグ、そんなにフルーツ一杯取っちゃ、許さないんだから♪」
「あん、代わりにモンブランの栗あげるから、許してよう♪」
(………止まらないので、食事シーンは割愛させていただきます。<(_ _;>)

「あ〜、おなか一杯食べちゃった。」
「本当、でも美味しかったわよね。メグは痩せてるからいいけど、私ダイエットしなきゃ^^;」
「そんなことない…詩織ちゃん、すっごくスタイル良いじゃない。」
甘いものの後は、ダイエットの話題。まあ、普通の展開である(^^;

「ところで詩織ちゃん、馬場さんと仲いいよね。」
ひとしきり雑談をした後、唐突に愛が言った。
「なぁに、突然。…まあ、物心ついたときから、ずっとお隣さんだもの。腐れ縁みたいなものね。」
「付き合ってるとか…そういうのじゃ…」
ちょっと顔色を伺うように、愛が尋ねる。
「そんなのじゃないわよ。まあ、確かに昔と比べたら随分格好よくなったなあとは思うけど。」
ちょっとどぎまぎして、詩織が答える。
(そっか…今日の放課後も、正平君のことを…)
「本当はね…詩織ちゃんにはお願いしちゃいけないことだと思うんだけど…」
「正平君に、紹介してあげようか?」
2人の台詞がかぶる。愛は、はっとして詩織の顔を見た。
「だって、詩織ちゃんだって本当は馬場さんのこと…」
「私は…まだ正平君のことを幼馴染として好きなのか、一人の男の子として好きなのかわからないの。だから、メグを紹介できない理由も無いわ。まあ、もし私もその気になっちゃったら、ライバルだね♪」
詩織が、ちょっと無理して笑う。
「でも、本当にいいの…?」
複雑な顔で愛が聞いた。
「気にしないで。それにメグは可愛いから、きっとすぐ気に入られるわよ♪なんたって、正平君はきらめき高校きっての女ったらしなんだから」
「え…それって…」
「嘘、嘘。冗談だってば。メグが気に入られるだろうってのは本当だけど。」
「もう…詩織ちゃんったら…」
愛が、ようやく少し笑った。
「でもね…やっぱりすぐにっていうのはちょっと勇気が出ないから…」
「それじゃ、クリスマスのとき…きっと、伊集院君の家でパーティーとかすると思うから、そういうときなら紹介しやすいでしょ?あ、でも正平君じゃ入れてもらえないかなあ。」
「そんな、悪いよ詩織ちゃん(^^; 」
今度は、愛も楽しそうに笑った。

FIN

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