科学部部室。
 今、科学部は俺と紐緒さんの2人しか部員はいない。
 何故って、部長である紐緒さんの独裁体制と、何よりその要求するレベルの高さについていける人が俺しかいなかったから。ちなみに部の存続、ひいては部費の予算をどうやって認めさせているのかは俺の知るところではないが…

 今日は、紐緒さんに呼び出されて、新しいメカの製作実験をしていた。ちなみに、俺にはどう考えてもなにか大型機械の一部分を作っているとしか思えないのだが、とりあえず何かは聞かないでおいている。

「そういえば、明日は紐緒さんの誕生日だっけ」
 休憩がてら、俺は紐緒さんに話しかけた。確か、7月7日、七夕の日が紐緒さんの誕生日のはずだ。
「そうだけど」
 紐緒さんが、ちらっとこっちを見て答える。相変わらずそっけないが、いつものことだ。
「まあ、普段の日と一緒よ。1つ年齢を加えるだけで、特別な感慨は無いわね。世の中にはたかが誕生日で大騒ぎする人も多いようだけど、全く馬鹿げてるわね」
  ぎく。
(折角だから、明日はどこかに行かない?)
 喉まで出掛かった一言を、必死に飲みこむ。
「それで?それがどうかしたの?」
「いや、なんでもないよ、あはは・・・はぁ。」
「そんなことより、実験の続きよ。あ、明日は休日だから1日作業するけど、当然来るわね。ちょっと計画が遅れ気味だから、21時くらいまでかかると思うけど。」
「(オニ…)」聞こえない程度につぶやく。
「何かいった!?」
「いえ、いかせていただきます!!」
 運動会でもめったに見られない、直立不動の返事になってしまった…なんだかんだで、紐緒さんには弱いというか、つい言うことを聞いてしまう生活が染み付いてしまっている。
「今日はもう遅いわ。明日もあることだし、もう終わりましょうか。」
 何気なく時計を見ると、もう8時をゆうに回っている。
「真・世界征服ロボの核となる動力炉…完成の日も近いわね…」
「紐緒さん、なにぼそぼそ言ってるのさ」
「あ…何立ち聞きしてるのよ!さっさと帰りましょう!!!」
(なんかとんでもないことを聞いた気がするなあ…)今作っているものの全体像が、紐緒さんの一言でわかってしまった気がする。

 自宅。時間はもう翌日になるかというような頃合だ。
 俺は、のんびりベッドに横になりながら、明日のことを考えていた。
「やっぱり・・・ああはいってもお祝い無しってわけにもいかんよなあ…」
 誕生日なんて全然気にしてないような紐緒さんの言葉が頭に浮かぶ。
「待てよ…それならせめて…何を作っているかも…」
 何気ない思いつきだが、何もお祝いができないのであれば、少しでも喜ぶことを…
 俺はベッドから飛び起き、急いで家を出た。

 翌日。
 朝、紐緒さんは登校すると、真っ直ぐ部室へ足を運んだ。
「さて…今日中にコア部分は完成させたいわね…」
 何気なく独り言をいいながら、部室に入る。
「…馬場君!?」(注:kuma'のゲーム使用名は「馬場正平」です(爆))
 部室の中で寝てる馬場を発見し、少し驚いた声をあげる。そして、真世界征服ロボの動力炉が組みあがっているのをみて、更に目を見開いた。
「まさか…一人で?でも、何を作っているかを知らない人間に、これを完成できるとは…」
 そう思いながら、機械の内部を確認する。問題なさそうだ。続いて、試動スイッチを押し、動作と出力状態をチェックする…問題無し。完璧だった。
(なんでこんなことを…そういえば、昨日の馬場君との会話…)
色々なことが、紐緒さんの頭の中をめぐった。

「ふぁ〜〜〜〜ぁ」
 困惑する紐緒さんの脇で、俺は間抜けな声を上げて目を覚ました。眠い。まあ、寝たのがつい1時間前くらいだから、起きられたほうが不思議なくらいだ。そして、紐緒さんがいるのに気がついて、
「おはよ、紐緒さん」と、軽く挨拶。
 紐緒さんはまだ事態が飲みこめてないようで、しばらく黙りこんでいた。
「…どうやって、これを、組み上げたの?設計図があるとはいえ、まさか私の計画に気付い…」
 俺はなんとなく、紐緒さんに笑いかけた。それを見て、紐緒さんもまた口を一旦閉じ、少し笑ってまた話し始めた。
「まあいいわ。でもこの計画を知って、なおかつ協力したということは、もう貴方は逃げられないと思って間違い無いから、覚悟だけはしておくことね。あなたの頭脳、私が貰い受けるわ。」
 紐緒さんは、高らかにそう宣言した。俺は、紐緒さんと初めて会った時の台詞をなんとなく思い出しながら、(そんなの、もうとっくに逃げられなくなってるよ…)と心の中で呟いた。
「…で、貴方には早速やってもらうことがあるんだけど。」
 紐緒さんは、いきなり俺に向かって言った。
「貴方のおかげで、今日の予定がすっかり狂ったわ。好きな所に付き合ってあげるから、さっさと計画を立てなさい!」
 そういう紐緒さんの頬が、なんとなく赤らんで見えた。

FIN

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