一目ぼれって・・・

 

(あっ!来た来た。憧れのあのひと・・・)

購買部へと歩いている一人の男子生徒を、

教室のドアの陰から気付かれないようにして見つめている。

(今日こそは・・・、今日こそは・・・彼とお話したい・・・)

 

-----------------数日前----------------------

「あ〜〜ん、急がないと5時限目に間に合わないよ〜〜(汗)」

廊下を小走りに走っていく。

目の前が、いきなり暗くなった。

ドン!!!

そう、教室から人が出てきて、ぶつかったのだ。

「いっ、っっっ・・・」

見るとそこには一人の男子生徒が心配そうに、こっちを見てる。

当然、男子生徒は微動だにしてない。

「君、大丈夫?」

そっと、差し出される手。

「・・・うん、平気。 貴方は?」

恥ずかしいので、自力で立ち上がった。

彼は行き場の無い差し出した手を、どうしようかと迷った挙句、ズボンのポケットに。

「ごめんよ」

「ううん、私の方が悪いから・・・。ごめんなさい。」

『廊下は走るな!』と書かれた、張り紙の前であった。

ふと上を見上げる。

(2-A・・・同学年・・・)

「え、え〜〜と、君、急いでたんじゃないの?」

「あ!いっけな〜〜〜い!!!」

すたたたた〜〜〜

------------------------------------------

(そろそろ、射程距離に突入。カウント、3・・・2・・・1・・・0!!)

ダッ!!

まるでそれは、シューティングゲームにおけるホーミングミサイルのように、

人の波をかいくぐり、目標に向かって加速していく。

「えい!!」

肩口からぶつかる。

ドン!!

「うぐぅ・・・」

撃沈・・・ならぬ、彼が吹っ飛んだ。

「・・・っっっ」

(思いっきりぶつかっちゃた。)

彼はヨロヨロと立ち上がり、顔は痛いのを我慢しながら笑っている。

「大丈夫?ごめんね、わざとじゃないの」

「あ・・・ああ、大丈夫大丈夫」

といいながらも、しりもち付いた所をさすってる。

「でも、『えい!!』って、言わなかったか?」

「え!!そ、そんなこと無いよ。 気のせい気のせい、偶然なんだから」

「・・・・・・そうか?」

「・・・じゃ、私急ぐから」

すたたたた〜〜〜

 

--------------数日後-----------------

(今日はこの間みたいに、強すぎないようにしなきゃ。)

目標を探して、全身がレーダーのようになる。

(そろそろ、来るはず・・・っと、来た来た♪)

彼はキョロキョロと周りを警戒している。

(今日はやけに警戒してる・・・って、もう4度もぶつかってるから当然ね)

いつもならぶつかってくる地点を通過した。

男子生徒はホッとしたのか、安心しきった。

「そら!!」

ドン!!

背中からの突撃であった。

奇襲成功!

先日のような勢いが無いから、彼は倒れては無い。

「ごめ〜〜ん、またぶつかっちゃったねっ!」

「わざとだろ!」

強い口調だが、怒ってはないようだ。

「ホントに偶然だよ」

「・・・ホントかよ」

「またね〜〜〜♪」

すたたたた〜〜〜

「・・・またぶつかるのかよ」

駆けて行く女生徒の後姿を見ながら、つぶやいていた。

 

------------その夜、女生徒の部屋-------------

机に向かっている。

はたから見ると勉強しているようだが、なにやらブツブツと呟いている。

「う〜〜ん、ぶつかりづらくなっちゃった・・・ど〜うしようかなぁ〜・・・」

考えながら辺りを見渡す。

ふと、この間学校から貰った『きらめき高校生徒名簿』が目に入った。

この女生徒は、きらめき高校の生徒であった。

「そうだ!!」

名簿に手を伸ばし、ペラペラとめくってみる。

学年クラス別に、名前・住所・電話番号・・・

「確か・・・彼は2-Aだったわ!」

2-Aのページを開いた。

一クラス30余名、男子だけでも15名はいた。

名前の欄を上から下、下から上へと目で追っている。

「あ〜〜ん、彼の名前がわかんな〜〜い(泣)」

 

---------------翌日----------------

(まずは張り込みよね。 張り込みは基本よ)

休み時間の間、2-Aの教室をジ〜〜〜と見つめる、

いかにも危ない女生徒がいた。

(今日は毎回、休み時間にここにいるけど、これが今日のラストチャンス)

しばらくすると、教室から誰か出てきた。

(な〜〜んだ、彼じゃなかった)

「ふ〜〜〜」

ガッカリしたような、ホッとしたようなため息を付いた。

出てきた男子生徒が教室の方に向かって、

「お〜〜い、『ダイスケ』〜〜〜、早くしろよぉ〜〜」

教室の誰かに声を掛けた。

「あ〜〜、今行くよ」

すると後から見慣れた男子が・・・

(あ!!)

『ダイスケ』と呼ばれて出てきた男子は、明らかに彼だった。

(・・・ダイスケ・・・クン・・・)

 

------------その夜、女生徒の部屋-------------

昨夜と同じように机に向かっている。

当然、勉強ではない。

(彼の名前は、『ダイスケ』・・・クン)

何やらご機嫌である。

何しろ今まで名前も知らなかった、憧れの彼の名前がわかったからである。

「あっ、そうそう!名簿でチェックしなきゃ♪」

2-Aのページを開き、『ダイスケ』という名前に該当する生徒を探す。

「み〜〜〜っけ♪」

「え〜〜と、フルネームは『出雲大輔』・・・で、住所は・・・、電話は・・・」

女生徒は手帳に書き写す。

書き写し終って、伸びをする。

目に入った電話(子機)

「掛けちゃおうかな・・・、電話・・・」

ポツリと呟いた。

 

-------------------数日後------------------------

偶然、大輔クンを見つけた。

この間、私に名前を教えてくれた男子も一緒に、二人で廊下を歩いていた。

(諜報活動開始!!)

二人に気付かれないように、後ろから接近。

会話が聞こえる。

「そういえばさぁ、最近俺の家に間違い電話が掛かって来るんだ。」

「間違い電話?」

「ああ、もう何度もあるんだ」

「それって、『ああ〜〜ん』とかっていうやつ?」

「ば〜〜か、それはいたずら電話だろ!」

大輔は男子の額にチョップを打ち込む。

「ん?」

大輔は人の気配を感じて、後ろを振り返った。

「どうした?」

連れの男子もつられて振り返る。

後ろには誰もいない。

「おかしいなぁ〜〜、確かに誰かいると思ったのに・・・」

「気のせい、気のせい」

「そうだな〜・・・でさ、間違い電話にしちゃおかしいんだよ・・・」

二人は歩いて行った。

女生徒は振り返る気配を感じ、とっさに開いていた教室に身を隠していたのだ。

中から見付からないように様子を伺っていた。

当然、教室にはその生徒が何人もいた訳で、

突然飛び込んできた、見ず知らずの女生徒にビックリして、

クラス中の視線が飛び込んできた女生徒に集中した。

「ふぅ、危なかった・・・」

額の汗を拭くようにして、一言呟いた。

視線を感じ、後ろを振り返ると、何人もの生徒が注目している。

「あ、あはは・・・(汗)」

照れ笑いをしながら後ずさり、一目散に逃げ出した。

 

------------その夜、女生徒の部屋-------------

いつものように、机に向かっている。

「ふ〜〜〜〜」

ため息を付いた。

「良かったぁ〜〜、見付からなくって」

ふと、時計に目をやる。

時刻は18:00

いつも、大輔君に電話をしている時間。

電話といっても、留守電メッセージに入れているだけだが・・・。

トゥルルルルル〜〜〜、トゥルルルルル〜〜〜

トゥルルルルル〜〜〜、トゥルルルルル〜〜〜

ガチャ

「(はい、出雲です。ただ今留守にしています。発信音の後メッセージをどうぞ)」

最近聞き慣れた彼からの言葉。

私だけへの言葉。

「あ、私。 ・・・もう、話す事無くなっちゃった」

ガチャ

「あぁ〜〜あ、何故言えないんだろう・・・たった一言、・・・『会って』って」

 

--------------------日曜日-------------------------

最近、休みの日は大輔君の家の近くに来ている。

(休みの日は何してるのかな?)

そんな些細な気持ちで、休みの日にはここにいるようになった。

大輔君の家のドアをノックする人影が。

(え?藤崎さん??)

 

藤崎さんとは、女生徒が在籍している高校の男子の憧れ、

女子や先生方からも絶大な人気の女生徒であり、

彼女を知らない人が居ないとまで言われている、スーパーアイドルである。

 

出てきたのは・・・

(・・・大輔・・・君・・・)

藤崎さんと大輔は二人で出かけていってしまった。

 

------------その夜、女生徒の部屋-------------

いつものように机に向かっているが、

今日はいつもと違って、どこか淋しげである。

(そ、そうよね・・・大輔君、彼女いるよね・・・)

(藤崎さんだもん・・・しょうがないね・・・)

女生徒は、必死に出てくる涙をこらえていた。

 

----------------翌日(休み時間)------------------

女生徒は机に頬杖を付きながら、ぼーっとしていた。

(何をする気にもなれない・・・)

頭の中が真っ白になっていた。

クラスで藤崎さんの話題が出ていた。

聞くつもりが無かったが、気になるので聞いてしまう。

「ねぇ、ねぇ、知ってる?藤崎さんって彼氏居るみたいよ」

「え〜〜、ホント〜〜?ねぇねぇ!誰だか知ってるの?」

(知っている・・・大輔君。 昨日・・・デートしてた・・・)

「何だかぁ、同じクラスのおさ・・・・・・」

ふと、昨日の出来事が頭の中で駆け巡る。

自然に涙が・・・

 

------------------数日後-------------------

(どうしても、諦められない・・・)

(どうしても、忘れる事が出来ない・・・)

時刻は18:00

あの事を見る前は、いつも電話していた時間。

あれからは電話もしていない。

(大輔君の顔を見る事が出来ない・・・)

「これで、最後にしよう・・・」

ゆっくりと、すっかり覚えた番号を順番に、そして確実に押していく。

トゥルルルルル〜〜〜、トゥルルルルル〜〜〜

電話を持つ手が震える。

トゥルルルルル〜〜〜、トゥルルルルル〜〜〜

ドキドキする鼓動。

ガチャ

「(はい、出雲です)」

「あ、貴方が好きです」

いつも、留守電のメッセージの投げかけていた言葉が自然に出ていた。

「(・・・え?)」

電話の向こうもビックリしている。

今日は留守電ではなかった。

「・・・あれ?」

「(もしも〜し?どちら様?)」

「あの〜〜、え〜〜と・・・(汗)」

いつものパターンではなかったので、調子が狂った。

「(・・・ひょっとしていつも掛けていた、間違い電話の人?)」

「え?・・・どうしてわかるの?」

「(だって、同じ時間じゃない、いつも)」

「え、えへへ・・・」

「(でも、ちゃんと『出雲』って名乗っているのに、何故間違えを?)」

「え、え〜〜と、そ、そう!!メッセージの声が、素敵だったから・・・(汗)」

「(・・・ふ〜〜〜ん、で、今日は何聞かせてくれるの?ちょっと楽しみだったんだぁ)」

「ほんと?」

「(最近掛けてこなかったでしょう?・・・どうしたの?)」

「あの・・・その・・・」

「(まぁいいや。キミ、なんだか楽しそうな娘だね、今度、会ってみない?)」

「・・・良いの!!」

とたんに、女生徒の顔がほころんだ。

「(ああ、もちろん。明日は都合はどう?)」

「うん、私はいつでもいいわ」

「(じゃぁ、待ち合わせは・・・10:00に・・・)」

「駅前に出来た喫茶店!」「(駅前に出来た喫茶店!)」二人の声がハモった。

「(あ!・・・ははは)」

「あ!・・・えへへ」

ガチャ

「嬉しいな〜〜♪」

ついさっきまで沈んでいたのが嘘の様である。

(・・・あ、・・・藤崎さん)

ふと、思い出した。

 

------------------翌日----------------------

(ちょっと早いけど、先に行って待ってようかな?)

駅前の喫茶店のドアを開けた。

カラン〜コロン〜

ドアに付いている鈴が、店の中に響き渡る。

「いらっしゃいませ〜」

ウエイトレスが私を窓際の席に案内する。

腰掛けて、店内を見渡す。

(・・・まだ来てない。)

「いらっしゃいませ、ご注文は・・・」

(でも、藤崎さんの事・・・どう聞こう?)

「あの〜〜(汗)」

(・・・やっぱり、聞くの止めよう)

「え?」

「あの〜〜、ご注文〜〜〜(大汗)」

ウエイトレスは困って立っていた。

「あっ!もう一人来るから・・・その時に」

ウエイトレスは怪訝そうにして持ち場に戻った。

 

(でも・・・、やっぱり聞きたい)

 

(ねぇ、藤崎さんの事、好きなの?)

 

(駄目よ!聞くまでもない)

嫌々をするように、首を振った。

ウエイトレスと目が合った。

(・・・ちょっと、はずかしぃ〜)

カラン〜コロン〜

誰かが入ってきた。

(あ、大輔君)

大輔は店内をキョロキョロ見ている。

先程のウエイトレスが出て、応対している。

(あ!!)

大輔と目が合った。

こっちに来る。

緊張で体が動かない。

「あれぇ?当たり屋!・・・どうしてここに?」

「え、えへへ・・・」

大輔はしばらく考え、

「ひょっとして、キミかぁ?」

「・・・う、うん」

「そうか!ちょっと話しでもしようか」

そう言いながら、大輔はテーブルの向かいの席に座った。

「いらっしゃいませ、ご注文は・・・」

「え・・・と、ケーキセット・・・だっけ?お勧めなのは?」

大輔君は当たり屋と呼ばれた女子生徒の顔を見る。

「うん♪」

「じゃ、それ2つ。  ホットで」

「あ、私はミルクティーで」

ウエイトレスは復唱して持ち場に去った。

「さて、キミには色々聞きたい事があるんだけど・・・」

「わ、私も・・・」

「じゃぁ、交互に一つずつ行こう、まず俺から・・・名前は?」

「わ、私は『タテバヤシ ミハル』、タテバヤシはのタテは図書館の館って言う字に、

ハヤシは木が二つ、ミハルのミは見聞の見、ハルは晴れ曇りの晴・・・」

見晴という女生徒はマシンガンのように喋った・・・。

「ふぅ、結構館林さんの事、大体わかったよ。・・・もう、館林さんの方は質問ない?」

「え〜〜と」

(どうしよう?聞く?藤崎さんの事・・・)

「う〜〜ん」

(でも・・・やっぱり・・・)

「無いならもう良いかな?この後、映・・・」

「待って、あと一つだけ!」

「え?・・・なに?」

「あ、・・・あの〜」

(自分の鼓動が聞こえる)

見晴はうつむいて、モジモジしている。

「そ、・・・その〜」

(早く、早く・・・)

「い、今・・・付き合っている人・・・い、いますか・・・」

うつむいたまま、聞いてみた。

「え?」

「いえ、付き合っていると言うか・・・その・・・」

「いや、いないけど」

見晴はうつむいていた顔を上げ、大輔の方を見た。

「・・・でも、日曜日とかって・・・一緒に出かけたり・・・とか」

「いや、大抵は家でのんびりしてるけど」

「・・・藤崎さんは?」

「え?藤崎?・・・あはは、まさか!!」

大輔はあっさりと喋った。

「でも、この間二人で歩いていた・・・」

(本当は藤崎さんが迎えに行っているのを見たんだけど)

「ああ?一緒に歩いた?・・・あれか?あれは・・・」

「なんでも、幼馴染に誕生日プレゼントするんだと。

それで、やつ(藤崎の彼氏)と親友の俺の意見が知りたいって言って、

無理やり付き合せられたんだよ。・・・全く、奴が羨ましいぜ!!」

大輔は考える事無く、あっさりと言った。

どうやら本当らしい。

「そうなんだ♪」

(よかった♪)

とたんに見晴の心の中のもやもやが、吹き飛んだ。

「なんだ、・・・ひょっとして付き合ってると思ったか?」

「え・・・えへへ・・・」

「ちなみに、俺が言ったって言いふらすなよ。結構あれ(藤崎)、怖いんだから。(笑)」

「うん♪」

(二人だけの秘密だね♪)

 

-----------------次の休日-----------------

中央公園の前で一人たたずんでいる。

大輔君が走ってやってくる。

「待った?」

見晴も大輔の元に走り寄る。

「ううん、今来た所」

(ホントは30分前からいたの)

「そうか、じゃぁ行こうか!」

「うん♪」

 

まだ手はつなげないけど、まだ二人は始まったばかり。

中央公園の桜は、今にも咲き始めようとしている。

来年の今ごろはどうしているかな?

きっとその時は、伝説の樹の下であなたに・・・。

 

END

 

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